『ラヴェンダーの咲く庭で』(2004年・イギリス)

 

 

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Today is #WednesdayWatching

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毎週水曜日は映画を観る日。

 

人との出会いは、優しく、ときに残酷なものだ。

1936年、イギリスのコーンウォール。初老の姉妹・アーシュラとジャネットはある日浜辺で若い男性・アンドレアが倒れているのを発見する。怪我が治るまでのあいだ、アンドレアの世話を続けていたある日、ふとしたきっかけで彼が才能溢れるヴァイオリニストだということがわかる。

ネグリジェのまま浜辺で無邪気に戯れる姉妹が、なんともガーリーな印象で始まるこの映画。 姉妹を演じるジュディ・デンチマギー・スミスの、年齢を忘れさせるような天真爛漫な表情がとにかく終始キュートなのだ。

編み物をたしなみ、庭いじりを楽しみ、気まぐれに音楽やピアノに触れて時間を潰す…。 アンドレアに特別な想いを抱いた女性は、どんどん思春期の女の子に戻っていく。
姉妹の「少女らしさ」に、胸が苦しくなる。

そして、ジョシュア・ベルのヴァイオリンの美しいこと! 彼の詩的かつ情熱的な演奏が、映画のカラーとマッチして、なんとも言えない切なさを覚えてしまう。
タイトルは、『ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジー』。

 

 

ラヴェンダーの季節に現れた青年は、わずかな時間だけ街の人々、そして姉妹にすこしだけ広い世界を教えてくれた。
人との出会いって、ファンタジーみたいなものだ、と思った。

  

Romance of the Violin

Romance of the Violin

 

 

 

 

 

愛おしき、不気味な世界 『居心地の悪い部屋』

 

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ホラーでもサスペンスでもなく、ファンタジーでもない。ミステリともちょっと違う。 描かれているのはごく普通の日常のはずなのに、読み終わったあとにひんやりとした後味の悪さが残る……。『居心地の悪い部屋』(岸本佐知子・編訳/角川書店)は、そんな短編アンソロジーです。

翻訳家の岸本佐知子さんがセレクト・翻訳を手がけた、「二度と元の世界には帰れないような気がする」短編を12作収録。ブライアン・エヴンソン、アンナ・カヴァン、レイ・ヴグサヴィッチなど、精鋭の作家を集めています。
物語はほんの数ページの短いものですが、理解しようとすればするほど不安を覚えるような、謎めいたものばかり。

昔から、うっすら不安な気持ちになる小説が好きだった。読みおわったあと見知らぬ場所に放り出されて途方に暮れるような、なんだか落ち着かない、居心地の悪い気分にさせられるような、そんな小説。(編訳者あとがきより)

「居心地の悪さ」はどれも最高級ですが、とくにアンナ・カヴァンの『あざ』は、たった10ページの小説とは思えないほど色濃く、不可解で、恐怖を感じました。
また、ジョイス・キャロル・オーツの『やあ!やってるかい!』やステイシー・レヴィーン『ケーキ』のなんともいえない不条理さや、ケン・カルファスの『喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ』に淡々と綴られたネガティヴな文章にも、不思議と惹き込まれるものがあります。

 

岸本さんの編訳本はどれもトーンの揃え方が素敵で、いつもとても楽しみにしているのですが、この本もとくにお気に入りのひとつ。 奇妙な世界に足を踏み入れたい好奇心旺盛なひとは、ぜひ手にとってみては?

 

居心地の悪い部屋 (河出文庫 キ 4-1)

居心地の悪い部屋 (河出文庫 キ 4-1)

 

 

「ばらの騎士」鑑賞のためのアジェンダ

 

ロココ時代の絵画から飛び出したようなステージ、衣装、貴族たち。
どこまでも煌びやかな音楽。
世紀の人気作、R.シュトラウスばらの騎士」を超えるロマンティック・オペラなんてないんじゃないかと、この作品を観るたびに真剣に思う。

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舞台は18世紀中頃*1マリア・テレジア治下のウィーン。元帥夫人マリー・テレーズは、年下の青年貴族オクタヴィアンと愛人関係にあった。ある日、訪ねてきた夫人の従兄・オックスに「婚約のしるしである”銀のばら”を、相手に届ける青年貴族を紹介してほしい」と頼まれ、いたずらごころでオクタヴィアンを推薦した元帥夫人。 ところが、”銀のばら”の使者(=ばらの騎士)となりオックスの婚約者・ゾフィーのもとを訪れたオクタヴィアンは、彼女と恋に落ちてしまう・・・。

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若い青年が、自分より幾分も年上の男性より、平凡でも同年代の女性を選ぶのは当然だろうというのが、従来のラブコメの感想だ。しかし、「ばらの騎士」がそう素直に思わせない理由は、なによりも元帥夫人のあふれる魅力である。

まだ若いオクタヴィアンは、恋愛経験も少なければ人生経験も足りない。ゆえに元帥夫人の心のうちを読み取ることもできず、ゾフィーへの想いも欲求のままに赴くだけで、彼のいたらなさ、ゆとりのなさが自然と浮かびあがってしまう。

一方、人生の酸いも甘いも噛み分けた大人の女元帥夫人は、一時は取り乱すもののすぐに平静を取り戻し、若い女に走った愛人を責めることもせず、ひたすらに嘆くこともしない。ゆっくりと、若く脆いふたりの恋が終わるのを、カウントダウンして待つのだ。

元帥夫人ははじめからわかっていた。いつかオクタヴィアンがもっと若い女性のもとへ行ってしまうことも、そして彼のするであろう恋が未熟なものであることも。
「それでもいいのよ」と、背中で語るしたたかさが、ほんとうに美しい。

いい女に会った男は、喜んでばかりもいられない。その分だけ道幅は狭くなる。いい男に会った女も、同じである。(黒田恭一

オクタヴィアンは元帥夫人のもとにいれば、黙っていてもおのずと良い男になれただろう。 最高の女性がそばにいてくれるのだから。
でも、オクタヴィアンにはそれがわからない。目先の欲望しか見えないから。それは、彼が若いからだ。

最良の選択なんて、きっと人生を終わるまで一生わからないきがする、恋愛もキャリアも。

次に「ばらの騎士」を観るときは、その音楽と背景にときめきながら、オクタヴィアンと、彼と同じように失敗ばかりの自分を重ねてしまうだろうなと、思わずにはいられなかった。

 

*1…METライブビューイングの新演出では、舞台を20世紀に置き換えたものとなっています。(2017年6月9日追記)

 

METライブビューイングにて、6月10日より上映開始

 R・シュトラウスばらの騎士》 新演出


上映期間:2017年6月10日(土)~6月16日(金)
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ 
演出:ロバート・カーセン
出演:ルネ・フレミング(元師夫人)、エリーナ・ガランチャ(オクタヴィアン)、エリン・モーリー(ゾフィー)、ギュンター・グロイスベック(オックス男爵)、マシュー・ポレンザーニ(歌手)
公式サイト:www.shochiku.co.jp

 


METライブビューイング2016-17≪ばらの騎士≫第3幕 三重唱 リハーサル映像1

 

 

今週のユートピア*2017.5.28〜6.3

 

生活の中にはお気に入りのものだけを置いて過ごしたい。
自分にとって心地のよいもの、美しいと思うものだけを集めた理想郷=ユートピアを作りたい。

そんな想いを込めて、今週に見つけたものやニュースのなかで、特にお気に入りのものを紹介します。

 

▪︎ユートピア(Utopia)
ギリシャ語からの造語で、どこにもない場所の意》
①トマス=モアの長編小説。1516年刊。原文はラテン語。架空の国ユートピアの見聞録というかたちで、当時のヨーロッパ社会を批判、自由平等な共産主義的社会、宗教の寛容を説く。 ②(utopia)《①から転じて》空想された理想的な社会。理想郷。理想の国。無可有郷(むかうのさと)。
出典:デジタル大辞泉

 

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ポール & ジョー 初のウェディングドレスコレクション

 

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結婚の予定は今のところまだありませんが、可愛いウェディングドレスを眺めるのは大好き。そんななか飛び込んできた、大好きなポール&ジョーのウェディングラインのニュース!

カタログの世界観がもう、叫びたくなるほど大好き。ここ数年はBEAUTEラインも含めて、ボタニカルな印象を強めていたポール&ジョーですが、自然のなかに佇むエフォートレスでかつ繊細な美しさには、思わずため息が出そうです。

 2017年秋ごろから、ドレスショップやホテルでレンタルが開始されるとのこと。6月のコレクション発表が楽しみです。

http://www.paulandjoe.jp

 

ニコライ・バーグマンのジュエリーブランド 旗艦店オープン

 

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ドレスにジュエリーにとなんだかブライダルづいた1週間ですが、やっぱりこちらも外せない。フラワーアーティストニコライ・バーグマンの手がけるジュエリーブランド「ナチュア & ニコライ バーグマン(NATUR & NICOLAI BERGMANN)」のデビューです。花の美しさや儚さをジュエリーの中に閉じ込めたような、バーグマンの世界観がぎゅっと詰まっているジュエリー。

青山にオープンしたお店も、フラワーアレンジがたくさん施された、素敵な空間になっているみたいです。

ブライダルはもちろん、カジュアルラインもあるみたいなので、自分用にひとつは手に入れたい! 

 ■NATUR & NICOLAI BERGMANN(ナチュア&ニコライ バーグマン)
東京都港区南青山 5-5-20
営業時間:11:00~20:00 / 火曜日定休(祝日営業)

Nicolai Bergmann

 

 

クラシック女子のクローゼット vol.1*Sister Jane

 

コンサートに出かけるときは、とびきりのお洒落をしていきたい。 だけど、コンサバティブなお洋服で済ませるのもつまらない。

そんな女の子のためのファッション・ガイドをつくってみました。

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今日はSister Janeのお洋服。 ヴィンテージにインスパイアされたスタイルと、トレンドを意識したオリジナリティ溢れるデザインが印象的なロンドン発のガーリー・ブランドです。

ジェーン・オースティンの小説に登場しそうな、襟付きドレスでコンサートに出かけましょう!

  

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https://sisterjane.com/products/perfect-wave-dress

ブルー×ヌードのウェーブ模様のレースが、爽やかでエレガントなドレス。
天然石がちりばめられた襟元がなんともデコラティヴ!

 

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https://sisterjane.com/products/young-folks-polo-dress

シースルーも清楚に着こなせるのが襟付きドレスの魔法です。
足元はあえてファンキーに、Dr.Martinのブーツを合わせたい!

 

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https://sisterjane.com/products/castaway-tweed-dress

お嬢様の代名詞・ツイードのワンピースも、ラウンドフリルで360度ガーリーに。
シックなブルーカラーなので、子どもっぽくなりません。

 

sisterjane.com

 

このドレスを着て出かけたいコンサート

◼️東京都交響楽団 第834回 定期演奏会Cシリーズ

東京芸術劇場コンサートホール / 2017年6月21日(水)14:00開演

<INFORMATION>
□プログラム ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲 / ダンディ:フランスの山人による交響曲 / ベートーヴェン交響曲第6番《田園》
□出演 指揮:大野和士 / ピアノ:ロジェ・ムラロhttp://www.tmso.or.jp/j/concert_ticket/detail/detail.php?id=3038&year=2017&month=6

王道ガーリーなお洋服を着て、王道クラシックのコンサートへ。6月の都響定演は、乙女人気の名高いドビュッシー・ダンディ・ベートーヴェンの緑あふれるプログラム。夏休みはまだ先だけど、気持ちだけでもバカンスの準備を始めたい。

 

 

『靴に恋する人魚』(2005年・台湾)

 

 

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Today is #WednesdayWatching
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毎週水曜日は映画を観る日。

 

ヒールの靴を履く勇気を与えてくれたのは、ビビアン・スー主演のこの映画がきっかけ。

「良い靴は素敵な場所に連れていってくれる」という、イタリアの有名な諺がありますが、映画『靴に恋する人魚』は、本当にそうなんじゃないかな、と思わせてくれます。

主人公ドドは、とにかく靴が大好きな女の子。カラフルでファンシーな背景と、夢見がちな女の子の夢見がちな物語……という、一見可愛いファンタジー映画ですが、結末にはいろいろなことを考えさせられてしまう、寓話のようなお話です。

とはいっても、決して重く悲しい物語ではなく、ひたすらに純粋なラブストーリーも、ちいさな幸せを見つけ続けるドドも、彼女を取り巻くおかしくも温かい愉快なひとたちも、やさしい愛に溢れた幸せな映画です。

 

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ビビアン・スーの美しさ、真似したくなるガーリーなファッションとお部屋はもちろん、何と言ってもいちばんの魅力はやっぱり靴!

いつもは定番の歩きやすい靴ばかりを選んでしまいがちなわたしですが、「明日はちゃんとクローゼットのコレクションから、とっておきの靴を選んでみようかな」と、この映画を観るたびに思ってしまうのです。

 

もうひとつ、ダニー・リャンが手がけたこの映画の音楽がとても素晴らしいのですが、 どうやらサントラは出てないようで残念。ビビアンが歌う、フレンチ・ポップのようなボサノヴァのような、キッチュな劇中歌も可愛くてお気に入り。

 

 

心のつぶつぶを癒すエッセイ。『つぼみ茸ムース』

 

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2017年も上半期が終わろうとしていますが、年始に出会った森博嗣さんのエッセイ『つぼみ茸(きのこ)ムース』(講談社)は、もうすでに今年のベスト・ブック・リストに入れようと思っています。

本著は森さんの「100のつぶやき」をテーマに、1テーマあたり2ページほどの簡潔な文章を収録しています。内容は現代社会に関する意見、若者に対するメッセージから、プライベートな小話(ヨーグルトの話とか)まで多岐に渡りますが、目次だけ読んでもはっとさせられるものばかり。

 

目次(一部抜粋)
・「やらなければならない」は、「やれば良い」ではない。
・どんな社会が好きか、ではなく、どうすれば良くなるのかを考えよう。
・お金をもらうために仕事をする人の方が、安心して依頼できる。
・「書くつもりだ」と「書く計画だ」は大間違いである。
・タレントやアスリートは、品位方正でなければならないのか?
・友人が少ない僕です

 

一見、自己啓発本のようにも見えますが、決してそれだけではありません。 理想論をつらつらと述べるだけではなく、小言で終わらせることもなく、問題点をきちんと提起し、それに関してのデータや現状をきちんと自己分析する。そのうえできちんと自分の意見で締める……というあくまでも論理的な文章は、さすが作家のほかにも工学博士という肩書きを持つ森さんならではだなあ、と思いました。

日常生活に浮かんだちいさな「?」や、「これって私が間違ってるのかな?」と感じた違和感など、心のなかのつぶつぶとしたものたちをすりつぶしてくれるエッセイです。
SNSが蔓延し、他人の意見を赤裸々に見る・見られる現代はちいさな意見も過剰に大きくなる世の中です。なんだか面倒な時代になったなあ……と無駄にヒットポイントをすり減らす日々もありますが、森さんのようなおおらかな姿勢で、どーんと構えて過ごしていきたいなあ、と思いました。

 

 

 

森さんの公式サイトは、アニメに出てきそうな実験室みたいで可愛くて好きです。

森博嗣の浮遊工作室