「ばらの騎士」鑑賞のためのアジェンダ

 

ロココ時代の絵画から飛び出したようなステージ、衣装、貴族たち。
どこまでも煌びやかな音楽。
世紀の人気作、R.シュトラウスばらの騎士」を超えるロマンティック・オペラなんてないんじゃないかと、この作品を観るたびに真剣に思う。

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舞台は18世紀中頃*1マリア・テレジア治下のウィーン。元帥夫人マリー・テレーズは、年下の青年貴族オクタヴィアンと愛人関係にあった。ある日、訪ねてきた夫人の従兄・オックスに「婚約のしるしである”銀のばら”を、相手に届ける青年貴族を紹介してほしい」と頼まれ、いたずらごころでオクタヴィアンを推薦した元帥夫人。 ところが、”銀のばら”の使者(=ばらの騎士)となりオックスの婚約者・ゾフィーのもとを訪れたオクタヴィアンは、彼女と恋に落ちてしまう・・・。

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若い青年が、自分より幾分も年上の男性より、平凡でも同年代の女性を選ぶのは当然だろうというのが、従来のラブコメの感想だ。しかし、「ばらの騎士」がそう素直に思わせない理由は、なによりも元帥夫人のあふれる魅力である。

まだ若いオクタヴィアンは、恋愛経験も少なければ人生経験も足りない。ゆえに元帥夫人の心のうちを読み取ることもできず、ゾフィーへの想いも欲求のままに赴くだけで、彼のいたらなさ、ゆとりのなさが自然と浮かびあがってしまう。

一方、人生の酸いも甘いも噛み分けた大人の女元帥夫人は、一時は取り乱すもののすぐに平静を取り戻し、若い女に走った愛人を責めることもせず、ひたすらに嘆くこともしない。ゆっくりと、若く脆いふたりの恋が終わるのを、カウントダウンして待つのだ。

元帥夫人ははじめからわかっていた。いつかオクタヴィアンがもっと若い女性のもとへ行ってしまうことも、そして彼のするであろう恋が未熟なものであることも。
「それでもいいのよ」と、背中で語るしたたかさが、ほんとうに美しい。

いい女に会った男は、喜んでばかりもいられない。その分だけ道幅は狭くなる。いい男に会った女も、同じである。(黒田恭一

オクタヴィアンは元帥夫人のもとにいれば、黙っていてもおのずと良い男になれただろう。 最高の女性がそばにいてくれるのだから。
でも、オクタヴィアンにはそれがわからない。目先の欲望しか見えないから。それは、彼が若いからだ。

最良の選択なんて、きっと人生を終わるまで一生わからないきがする、恋愛もキャリアも。

次に「ばらの騎士」を観るときは、その音楽と背景にときめきながら、オクタヴィアンと、彼と同じように失敗ばかりの自分を重ねてしまうだろうなと、思わずにはいられなかった。

 

*1…METライブビューイングの新演出では、舞台を20世紀に置き換えたものとなっています。(2017年6月9日追記)

 

METライブビューイングにて、6月10日より上映開始

 R・シュトラウスばらの騎士》 新演出


上映期間:2017年6月10日(土)~6月16日(金)
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ 
演出:ロバート・カーセン
出演:ルネ・フレミング(元師夫人)、エリーナ・ガランチャ(オクタヴィアン)、エリン・モーリー(ゾフィー)、ギュンター・グロイスベック(オックス男爵)、マシュー・ポレンザーニ(歌手)
公式サイト:www.shochiku.co.jp

 


METライブビューイング2016-17≪ばらの騎士≫第3幕 三重唱 リハーサル映像1