愛おしき、不気味な世界 『居心地の悪い部屋』

 

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ホラーでもサスペンスでもなく、ファンタジーでもない。ミステリともちょっと違う。 描かれているのはごく普通の日常のはずなのに、読み終わったあとにひんやりとした後味の悪さが残る……。『居心地の悪い部屋』(岸本佐知子・編訳/角川書店)は、そんな短編アンソロジーです。

翻訳家の岸本佐知子さんがセレクト・翻訳を手がけた、「二度と元の世界には帰れないような気がする」短編を12作収録。ブライアン・エヴンソン、アンナ・カヴァン、レイ・ヴグサヴィッチなど、精鋭の作家を集めています。
物語はほんの数ページの短いものですが、理解しようとすればするほど不安を覚えるような、謎めいたものばかり。

昔から、うっすら不安な気持ちになる小説が好きだった。読みおわったあと見知らぬ場所に放り出されて途方に暮れるような、なんだか落ち着かない、居心地の悪い気分にさせられるような、そんな小説。(編訳者あとがきより)

「居心地の悪さ」はどれも最高級ですが、とくにアンナ・カヴァンの『あざ』は、たった10ページの小説とは思えないほど色濃く、不可解で、恐怖を感じました。
また、ジョイス・キャロル・オーツの『やあ!やってるかい!』やステイシー・レヴィーン『ケーキ』のなんともいえない不条理さや、ケン・カルファスの『喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ』に淡々と綴られたネガティヴな文章にも、不思議と惹き込まれるものがあります。

 

岸本さんの編訳本はどれもトーンの揃え方が素敵で、いつもとても楽しみにしているのですが、この本もとくにお気に入りのひとつ。 奇妙な世界に足を踏み入れたい好奇心旺盛なひとは、ぜひ手にとってみては?

 

居心地の悪い部屋 (河出文庫 キ 4-1)

居心地の悪い部屋 (河出文庫 キ 4-1)